1次予選でも圧倒的な演奏をしてくれた牛田さん。待ちに待った2次予選。牛田さんが曲についてお話してくれていて大変勉強になるので、演奏と一緒に記念にまとめようと思います!
牛田智大 2次予選
演奏 YAMAHA CFX
下にあるプログラムの時間のリンクをクリックするとその曲から聴けます
12.30 – 13.10 TOMOHARU USHIDA (Japonia / Japan) https://chopin2020.pl/en/competitors/…
- Waltz in A flat major, Op. 42 (2:41:15)
- Ballade in F minor, Op. 52 (2:45:41)
- Barcarolle in F sharp major, Op. 60 (2:57:23)
- Polonaise in A flat major, Op. 53 (3:06:36)
2次予選曲目のストーリー
牛田さんがTwitterで「今日のプログラムでは、ショパンの「理想」を描きます。(”理想”=実現できないものであり、戻ることのできない祖国への憧れ)」「彼の内面の移ろいを皆さまと共有できたら嬉しいです」とツイートしてくれてます!
↓曲の解釈はこちらから一部引用しました。
ワルツ Op. 42
「ウィーンで大衆音楽として捉えられはじめたワルツに対する批判を、素朴で偉大な伝統が失われつつあったポーランドに重ね合わせて書かれたop.42」
バラード Op. 52
この2次で演奏した4番は「1〜3番とは異なりより深い意味を持つ」。この作品の「”人生においてもっとも重要なのは財や名誉を得ることではなく、愛をもって生きることだ”という哲学はポーランドの国民性にも通じる」
「愛と素朴さ、ポーランド民族を讃える意味で作曲されたop.52」
舟歌 (バルカローレ) Op. 60
この曲のツイートもしてくれてますが、ショパンコンクール以前にトリトン・アーツ・ネットワークアーティストインタビューで牛田さんが舟歌について詳しくお話していたのでまとめると。。(舟歌はショパン後期の作品です)
(舟歌は)「清濁あわせ呑むような、美しいものも醜いものも同じように命を吹き込んでゆくようなところがある」「ずっと美しいだけではなく、かなり長くペダルを踏んだり和声的には少し異様に聴こえるところもあるのですが、最終的には全てが美しさのなかに混ぜ込まれている」
「ショパンも〈舟歌〉を書く頃にはおそらく自分の命がもう長くないことを完全に受け入れていましたから、そういう意味でも彼の〈諦め〉を感じることができるのではないかと思います」
牛田さんはリサイタルのプログラムで舟歌を最後に演奏することもあったのですが、それについて「この〈舟歌〉という作品が持つ無常観は特別で、その後に対抗できる作品は少ない」とお話してました。
このお話を聞いて、牛田さんの舟歌聴きたいな〜って思っていたのです‼2次予選ではTwitterで舟歌について「温かく穏やかな人生への憧れが込められたop.60」とあるし、今回はプログラムの最後ではないので、これも楽しみにしていました!
英雄ポロネーズ Op. 53
そして2次予選最後の曲、英雄ポロネーズは「祖国への誇りを描いたop.53」とツイートしてます。
ショパンの矛盾について 牛田さんのお話
2019年5月のONTOMO牛田智大インタビュー でショパンについてのお話があったのでまとめてみます!
「哀しみをともなった明るさがある」と表現されることも多いショパン。牛田さんが「そういった矛盾が演奏スタイルにも言えて‥演奏家にとって悩まされる難しい作曲家」と言っています。その矛盾についてインタビューからピックアップしてまとめると
- 「理知的でありながら即興性も必要」
- 「激しいから力強く、静かだから優しくというのではない」
- 「コントラストが激しい作曲家ではない→ラフマニノフのようなffは必要ない、ドビュッシーのような柔らかすぎるppも必要ない」「古典派の流れを汲んでバッハに通じるところもある」
という内容です。「コントラストが激しくない」から牛田さんが言う「限られた中でどれだけ複雑さを表現できるか……」という悩みが出てくるようです。
- リスト→「ひとつのはっきりした輪郭があって、テクニックはそれを装飾するものでしかない」
- ラフマニノフ→「最大限にやるのがよしとされます。音色が変わるときもドラマティックなコントラストをつけて魅力的に音を作ることが許される」
というお話をしてますが、リストやラフマニノフのようにテクニックを全面に押し出したり、コントラストを大袈裟にできないショパンの難しさ。ショパンのテクニックは「音楽的なものと直結しているので、そこが難しいんです。テクニカルに弾きすぎるわけにもいかず、正しいフレージングも求められます」とあります。
聞けば聞くほどショパンの音楽ってショパンっぽい。そこに挑戦する牛田さん。そして、こんなふうに一生懸命考えて悩んでる牛田さんの姿がショパンと重なります〜。
まとめ
今回も息を呑む演奏でした。バラードから舟歌、続けて演奏するなんてカッコ良すぎる〜!からの英雄ポロネーズ!それを全て弾ききる体力と精神力。牛田さんの演奏は本当にミスが少ない。あんなにエモーショナルになって演奏すれば、さすがに指が上ずりそうだけどそれがない。前回の牛田さんの記事を書いた時、「技術を安定させ、音楽的なことにより集中できるようにテクニックの見直しをしている」というお話があったけど、まさにこれが出来ているんだなと思いました。安定した技術があるから、どんなに感情移入しても演奏をコントロールできる。だからオーディエンスに牛田さんのストーリーが届く。
2次予選演奏後のインタビューでは、「僕は緊張しやすいタイプで、小さい頃から舞台で弾けなくなってしまうことがたくさんあっていつも悩んでいた」驚‼「楽譜を本当に深く読んで、舞台に立っている人の中で自分以上に作品を深く研究した人はいないと思えるくらいまで勉強することがなによりも緊張をなくす方法なのかなと思います」ってお話してたのを聞いて!!!本当に涙出そうでした。ピアノに限らないないと思うけど、才能だけじゃない。努力と練習なくして、成功はありませんね。
全て出しきった後の表情があどけなくてちょっとホッとします〜↓
こんなにたくさん考えて創った心に残る演奏を披露してくれて、牛田さんホントにありがと〜。感謝の気持ちでいっぱいです!
追記 結果発表
↓参加者のステージごとの評価が分かる
↓優勝はファツィオリで演奏したブルース・リウさん
残念ながら3次予選進出はなりませんでしたが、審査員の先生方も1次予選からずっと苦しんらっしゃる様子がコメントから伺えます。
今回の牛田さんの演奏は本当に完成されたほぼ完璧な演奏だったと思います! ショパンらしさって何でしょうね。先程の「ONTOMO」のインタビューでは「好きな作曲家であると同時に、苦手な作曲家。強く共感できるけれど、それを表現するためにはもっと人生経験が必要だし、テクニックだけではないいろいろな要素が求められる」と言ってます。もし可能だったら。。第19回も是非参加して、またステキな演奏を聴かせてほしい!
第16回ショパンコンクールで史上最年少でファイナリストになったニコライ・ホジャイノフさんも、今回参加して前回と全然違う演奏を披露してくれてます。それがどう評価されるか分からないけど、音楽は変わるから。それが良いんだと思います。
牛田さん、これからも牛田さんらしい音楽を届けてください!今回はお疲れさまでした♡
牛田智大 1次予選
↓牛田さんの1次予選の演奏、プロフィール、受賞歴、インタビューの紹介などはこちら
追記:牛田智大 2次予選を終えて〜審査の感想など
↓ニコライ・ホジャイノフさん
↓牛田さんと同じく1次予選から参加したシモン・ネーリングさん
↓ショパンコンクール関連の記事はこちらから
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