表紙写真:HKU MUSE
ブルース・リウがショパンコンクールで優勝した後、香港大学のダニエル教授とズームインタビューしたYouTubeがあります。コロナで規制が多かった時期に大学プログラムとして企画されたMusic in Wordsシリーズの一つです。リリースされたのは2022年8月で時間は経っていますが、コンクールの感想などは少しで、主に音楽について掘り下げた話をしているし、「わたしもそれ聞いてほしかった!」って質問を教授が沢山してくれて勉強になるので、まとめてみたいと思います‼
Music in Words: Bruce Liu in the Time of COVID-19
↓30分位の長いインタビューで全部は難しい!って事でこちらのインタビューから興味深いトピックをいくつかまとめました
Music in Words Online: Bruce Liu in the Time of COVID-19
Spotify: Bruce Liu in the Time of COVID-19 Playlist
第18回ショパンコンクールについて
第18回後のインタビューなのでコンクール関連の質問もありますが、ブルースさんがより詳しくお話してくれたインタビューを以前まとめたので重複している部分は省きます。↓こちらがその記事
ブルース・リウのショパンはハッピーショパン
左: ブルース・リウ 右: 香港大学のダニエル教授
ダニエル:第18回ショパンコンクールでは全ての審査員が一致してYESをつけたただ一人のピアニストだと思いますが、にも関わらず予選の後に「ダメなら帰ろうと荷物をまとめていた」というのは面白いエピソードですね。
ブルース:自分のショパンの表現は、ユニークというか、自身のタッチを多く加えたものなので(審査員全員が)演奏を気に入ってくれたのはラッキーでした。人々はショパンに対しノスタルジー、悲しみなど既にある程度決まったイメージを抱いているけれど、自分はそれに対しハッピーなショパンを表現したので。
自分の生活週間がコロナで変わったせいで思考パターンも変わったのかもしれないけれど。。自分の演奏を周囲が好きでもそうでなくても気にしないことにしようと思い、自分が「こうだ」と考えた音楽を提示したいと思った。後は流れにのって行きました。
伝統的なショパンのイメージはどうする?
ダニエル:ハッピーショパン、素晴らしいですね。「人々はショパンに対して、既にある程度決まったイメージを抱いている」と言っていましたが、ショパンの解釈の仕方についてとても興味深い問題提起をしてると思います。
沢山の伝統が有ると思うし「ショパン」という言葉そのものにFormula=お決まりのやり方のような物もあるでしょう。人はその系統を辿ろうとします。例えば「私はこの先生やあの先生に師事してこの様にショパンを習ってきた。だから自分の解釈こそが本物のショパンだ」みたいな人が居ますよね。そういった世襲に対してどのように対応したんですか?「そうゆう事は一切気にしない。他のピアニストの演奏は聞かず、ただ自分のハッピーショパンを表現するだけ」というやり方ですか
個性は大切〜皆んなが同じ演奏をするのは危険
ブルース:正直言って両方でしょうか。「いつでもある程度のルールが有る」という事にクラシック音楽の価値があります。そしてそこには良い面も悪い面もある。良い面は歴史が有ることで、良いか悪いかを比べる方法があること。他の分野ではその判断が難しい場合もあると思います。
悪い部分はもちろん、簡単にフリーズしてしまうこと。芸術として一番危険な事は、皆んなが同じ方向を見て同じような演奏をしてしまうこと。
今の時代、テクノロジーの発達などにより、どこを見ても似たようなものが多い。例えばショッピングモール。ニューヨークなのか、中国なのか日本なのか、どこに居るのか分からない。これは危険な事だと思っている。以前はフランス、ロシア、ドイツの学校へ行った生徒達はそれぞれが非常に違うスタイルの演奏をしていたものだ。今はテクノロジーの発達によりいろいろ進歩した事もあるとは思うが、その中で個性をキープすることはとても大切だと思っている。
歴史的理解と個性的なタッチのブレンド
ブルース:だから歴史的な理解と個性的なタッチをどのようにブレンドさせるかという事について常に努力しながら取り組んで来ている。ここで重要なのはセンス良く、説得力がある方法でしなければならないという事。
ダニエル:(ブルース)自身の演奏をとても良く描写していると思います。YouTubeで演奏を聴きましたが、あなたのショパンは決して奇妙でも風変わりでもありません。が、非常に独特で”ブルース・リウ”的な響きを感じます。
ブルース・リウの多様なバックグラウンドと音楽の関係
ダニエル:先程フランス、ドイツ、ロシアの学校の話をしていましたが、あなた自身ご両親は北京出身で育ちはパリ、そこからカナダへ移住と多様なバックグラウンドをお持ちですね。どこかの学校から大きな影響受けたと思いますか。又は様々な伝統を合わせる事で違ったものが出来たという事でしょうか。
ブルース:その質問については自分もよく考えます。でもはっきりした答えは持っていません。う〜ん自分はモンスターですね。笑 それぞれの背景から自分を作る要素を探し出すのは可能だと思いますが、結局は自分の方法で創造してきたと言えると思います。ただ各文化からそれぞれの価値を見つけたのは確かでしょう。 いつも「我々に共通しているのは、それぞれが違っているという事」と言っているのですが、だから興味深いんだと思います。
ダニエル:全くその通りですね。 では自分の演奏の解釈やテクニック、スタイルに影響したと思う要素をそれぞれから見つけることは可能でしょうか。中国の学校は今多くのピアニストを育成中だと思うし、フランスは長い歴史がある、カナダにはグレン・グールドやアンジェラ・ヒューイットなど有名なピアニストが沢山いますよね。
ブルース:例えば、現在のフランスのピアニストを聴いたら100年前とは全く違う。彼はドイツで勉強したのかもしれない。中国人や韓国人はドイツ、フランス、イギリス、世界中の学校に行っていて、学校という言葉の意味合いがはっきりしなくなってきている。何とか残されているのは「構成」や「色彩」で、これにより「この演奏はより理論的、こちらはより感情的」などと区別できるかもしれない。
演奏とは基本的に役者として自分で自分の役を演じているわけだから、他人で上手くいったからといって同じ方法で自分にも良い結果がもたらされるとは限らない。いつでもその人の個性次第で、それが自分にとって最も大切なこと。学校や先生、どのように曲を弾くか、どの曲を選ぶかなど、全てにおいてどうやって自分の道を創るかがとても重要だと思います。
ブルース・リウの音楽スタイル
ダニエル:スタイルについて話しましょう。ショパン以外の話をしたいと思います。(ブルースの)ベートーベンのハンマークラヴィーアの演奏動画を見たのですが、私にとって啓示と言ってもよく、とても独特で驚きでした。アーティキュレーション、タッチ、カラー、シェイプ、フレーズに非常にフォーカスしていますよね。これはハンマークラヴィーアのような曲では珍しい事だと思います。タイトルから、ハンマーを連想させるアタックで力強い演奏をするピアニストが多いと思いますが、あなたの演奏はカラフルで叙情的で「ブルース・リウ」を聴いた気がしました。
ブルース:コロナでショパンコンクールが1年遅れたので、その1年を大曲の勉強に使いたいと考え思いついたのがハンマークラヴィーアでした。自分の演奏については上手く説明できないけれど、自分にとって新しい曲を勉強するということは、その人の人生を見ているのと同じことでとても好奇心をそそられます。
他のピアニストの録音を聴く?
ダニエル:ベートーベンでもショパンでも、曲を勉強する時に他のピアニストの録音をたくさん聴きますか。自分のスタイルを作る為にわざと全く聴かないピアニストも居ますよね。どのような方法でやるのですか。
ブルース:録音は聴きます。ただし聴くのは勉強を始めた最初の頃だけかもしれない。曲の選び方はシンプルで、まず鍵盤に触る前に曲の背景のストーリーを読む。これは自分にとって大切な事で、これをしなければ曲を学ぶ意味がない。その中で自分と何かケミストリーがあると思ったら弾き始める。そうしたら録音を聴くのはやめるというスタイルです。
ってお話でした。
ブルース・リウってどんな人
インタビューの最後に「ショパンコンクール前はあまり知られていなかったブルースさんを知るために‥」とダニエル教授が用意した簡単な質問にブルースさんが素早く答えるという企画。楽しかったのでいくつか紹介します
- 好きな色は:ブルー
- 好きな食べ物は:中華料理とフランス料理
- ピアノ以外に興味があることは:カーティング、水泳、歴史、チェス
- 好きなピアニスト:ミケランジェリ、コルトー、フリードマン。オールドスクールスタイルが好き。
- 好きな作曲家:今の時点ではラベル
- ピアノ曲以外の好きな曲は:モーツァルトのオペラ。テレサ・テンなども
- iPodで今聞いてるのは:ジャズが多い。ビル・エヴァンス、キース・ジャレットなど
- ジャズを演奏しますか:クラシック演奏家がジャズのマネごとをしているかんじ
- 好きなピアノブランドは:選ぶのは難しい。ブランド名を挙げたくない訳ではない。各ブランドというより、各ピアノごとにそれぞれ違いがある。
- ピアノごとに違うという意味で、ファツィオリでの演奏はどうでしたか:コンクールでファツィオリを弾いたのは初めて。リスクもあるけれど、コンフォートゾーンを出ることで報われることもある。
って質問コーナーでした!
ダニエル:今日は素晴らしいお話が聞けて楽しかったです。予選ごとに帰る準備をしていたなんて驚きです。勝利の予感のような事を何か感じたりしなかったのですか?
ブルース:No 。雲の中に居るようだった。ステージの直前までアイデアを変えたりして自分でも何をしているのかよく分からなくて、だから全てに確信が持てなかった。でも。。それが良いことが起きている時の感覚なのかも。
ダニエル:なるほど。素晴らしい演奏の秘訣は、何かを生み出そうとそこまで必死にならず、自然に任せ、新鮮で発明的である事ですね。音楽にそれが現れています。有難うございました。
ってお話でした
まとめ
ブルースさ〜ん!なんだか最後の最後までブルースさんがガツガツしてない感じが漂ったインタビューでした。香港大学のダニエル教授も興味深い質問をたくさん用意してくれて感謝です。
これまでのショパンのイメージの中でどのように個性を表現?
そして私が一番印象に残ったのは「歴史的理解と個性的なタッチのブレンド」の話で、これまでの歴史の中で出来てきた一般的なショパンのイメージと個性の両方をどのように曲で表現していくのか、という話。
「ここで重要なのはセンス良く、説得力がある方法でしなければならないという事」
という言葉を聞いて、まさにブルースさんだ〜!って思いました。ダニエル教授も言ってたけど、ブルースさんの演奏ってホント独特です。
↓センスはサイコーだし
「説得力がある」というのは「納得する」という事でもあると思いますが‥。でも実際これまでの誰とも違うショパン。。だけど聴いたら納得できるって、一体どんな演奏かちょっと想像できないな、なんて考えたけど。。
それこそが ブルース・リウの演奏 って事でしょうか。
↓ショパンコンクールの審査員の皆さんも全員「次も聴きたい、YES」って言ってたし。
実際の演奏を聴いてみたい!ブルースさんは将来どんなピアニストになるのかな〜。これからの演奏や活動が気になります。今月のコンサート‼どんな新鮮な演奏が聴けるのかワクワクです〜
2023年ツアー日程、予定プログラム、プログラム曲目演奏動画リンク、コンサートの感想など
↓ツアー日程の他、コンサートの予習用にプログラムの曲目音源をまとめました。
↓念願のコンサートに行きました〜!
プロフィール、ショパンコンクール全演奏動画、コンクール前インタビュー
第18回ショパンコンクールでのブルースさんの演奏動画を予備予選から全てまとめました。コンクール前のお話も興味深い!
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